3Dプリンターで自転車にスピーカーを搭載してみた【道交法対応チャリモノラル】
2015/06/13
※この記事は音楽を聴きながらの自転車の運転を推奨するものではありません
こんにちは、YOKOITOの髙松です。
いきなり注意書きから始まってすみません。
今回の話題は少しデリケートなので、一応書かせていただきました。というのは6月1日から改正道路交通法が施行されたことについてです。その中でも専らの話題になっているのがスマートフォンを操作したりイヤフォン・ヘッドフォンをしながらの自転車の運転が安全運転義務違反として罰せられる場合があるということのようです。スマートフォンの操作はもちろんですが、イヤフォンをしての自転車運転も周りの音が聞こえにくくなるので、危険なことに違いはありません。
実態としては「周囲の音が聴き取れないほどの音量で」音楽を聴いていると安全運転義務違反、ということになるようですが、イヤフォンは耳に突っ込んで、ヘッドフォンは耳に被せて使うものですから、当然周囲の音がかなり聴き取りにくくなるわけです。つい先日も千葉県でイヤフォンをして下を向いて自転車を運転していた大学生が歩行者と接触・転倒させた結果死亡事故になってしまったというニュースがありました。違法でない場合があるにしても、イヤフォンをしての運転は危険なのでやめたほうがいいでしょう。以前から危険だと思っていたこともあって、現在毎日自転車通勤をしている私ですが生まれてこのかたイヤフォンやヘッドフォンをして自転車に乗ったことは一度もありません。
でも
私は思いました。
車では音楽をかけて運転している人が大勢いるのに、市街地はともかくよく晴れた7月の空の下を川沿いにどこまでも続くかのように見える緑のサイクリングロードで葉っぱの匂いがする心地よい風に吹かれながら自転車を漕ぐ時ですら音楽を聴くことは叶わないのか、と。
畦道だったら私道の場合が殆どなのでOKなんですけどね。
そこで考えました。もっと周囲の音を聴き漏らさず、安全に音楽を聴くことは出来ないかと。そうすると当然答えは
スピーカー
ということになります。
この記事を書いている時に調べてみて気付いたのですが、自転車用のスピーカーって既に何種類も市販されているんですね。あたりまえといえばそうなのですが、これを思いついた時はなぜか「よし、いけるぞ!」と思って一気に作業してしまいました。以下にその過程と成果を示しましたのでご覧下さい。
例によって長々と書いてきましたがここから製作編です。今回は3Dプリンターについて知識がない方でもある程度わかるような書き方をしています。
さて、まずスピーカーをどうするかです。スピーカーも自作、といきたいところですが今回は屋外で使うということもあって防塵防滴仕様のバッテリー式Bluetoothスピーカー(出力3W)を使います。これなら煩わしい配線もなく携帯電話などから音楽を流せます。
これを自転車に取り付けたい。できればハンドルがいいかな……。と思いを巡らせ、採寸しながら簡単なアイデアスケッチ(のようなもの)を描きます。言い忘れましたが、私は全くもってものづくりの専門スキルも知識もないズブの素人なので、
当然スケッチも酷いものです。
サイズは大まかですが多分合っているでしょう。
それではこの心もとないスケッチを元に、3DCADというPCの中で立体的に設計図を作ることができる種類のソフトを用いて形にしていきます。3Dプリンターで出力するためには3Dデータが必要なので、それを作るわけです。今回はRhinocerosというCADソフトを使います。
まずは正面からスピーカーを見た時のシルエットを平面の曲線で描きます。私の計測では82.5mm四方だったのでそのように作ります。
次に先程の平面曲線を押し出すようにして、高さ30mmの四角い塊を作ります。上の画像はそこから角を削った状態ですね。これも簡単に行うことが出来ます。
お次はスパッと斜めに真っ二つにしてしまいます。このままスピーカーそのものの形を作ってもしょうがないので、一回り大きくてスピーカーを収めることができるちりとり型のものを作ろうという作戦です。ちりとりにするため内側を凹ませます。
こんな感じになりました。スピーカーより一回り大きくしてあります。収まりそうな形にはなったので、今度はハンドルに固定するパーツを作っていきます。
ハンドルと同じ太さ(22mm)の丸い棒を用意してもう少し太い丸棒をくりぬいて筒を作り、
適当な角度に曲げた板にそれをくっつけます。3DCADではこうした物体の足し算や引き算(ブーリアン、ブール演算と言います)が出来る手法があります。一つの特徴ですね。
そろそろこの灰色の画像にも飽きてきたかと思うので、次で終わりにしましょう。これはパーツ同士を留めるM3ナットやネジの穴を開けたり、細かい調整をした後の状態ですね。
最終的な形です。わかりにくいですが固定する部品は2つのパーツに分かれてハンドルを挟みこむような構造にしました。これでこの自転車用スピーカー固定具は全部で3つのパーツで構成されるということになります。
これらをそれぞれ別にプリントのための3Dデータ(拡張子は.stlという形式)に出力し、3Dプリントします。3Dデータをプリントするということについては前回の記事に書いたので、そちらを見て頂ければと思いますが、簡単に言えば0.2mmずつ、或いは0.1mmずつ、といった風に層を積み重ねて形を作る3Dプリンターのために、食パンのスライス方向を水平にして積み重ねたような、何十何百何千層という数の層に(2次元に)3次元のデータを細かく変換(スライス)するソフトで、データを変換して3Dプリンターを制御する言語に変えます。
今回使う機種は、そうして生まれたg-codeと呼ばれるものを、3Dプリンターを動かすためのソフトウェアから送信されることで動くものです。
説明はこのへんにして、実際に3Dプリントしていきます。今回もYOKOITOの運営する京都のものづくり広場fagoraの機材であるGenkei社製atom3Dプリンター3機を使って3つのパーツを同時に出力します。この3Dプリンターは、プラスチック樹脂を溶かして積み重ねていくという個人向け3Dプリンターとしては最も一般的な方式、FDM方式(熱溶解積層方式)と呼ばれるタイプです。
今回使う素材は植物由来のPLAという樹脂。そしてプリントにかかる時間は3パーツ合計で10時間くらい。3機に分けて出力するので実際はそんなにかかりません。
一番小さいパーツは1時間ほどで完成しました。
ネジの穴もちゃんと開いています。
その頃小さいのと同時スタートの大きいパーツ2つはまだまだ前半といったところでした。
まさにこのようにして積み上げていくわけです。
できました!!
3つそれぞれ違う色で出力してみました。
ナットもちゃんと収まります。
では、これを自転車に取り付けてみます。
今回は私の愛車ジュピター号に取り付けます。
つけてみました。ネジを締めてやると結構しっかり止まります。固定されずくるくる回るようだったら柔らかいゴムのような素材を使おうかと思っていたのですが、取り越し苦労でした。
全体像。素材の色が違うので裏面の雑さが目立ちますね。今度手直ししましょう。
肝心のスピーカー搭載は……
すっぽり収まります。走ると振動などが加わるので万全を期すなら押さえを設けた方がいいでしょうが、今のところの使用では問題なく固定されています。走行中に落下物が出たりすれば事故に繋がりかねませんから、そのあたりは神経質になりますが、充電のために外したりもするのでバランスが大切ですね。
斜めに切ったのはこれらのボタンを押せるようにしておくためでもありました。
実際に使ってみると……
立派な カーステレオ チャリモノラルでした
周囲の迷惑にならないよう音量を小さめにしていましたが、それでもある程度聞こえました(ある程度、ということは聞こえない分だけ周囲の音が聴き取れていることになります)。自分の顔の方に向いているので小さい音でもしっかり聞き取れるんですね。
そして、思わぬ副産物だったのが、たまたまハンドルに付けたため、空気の振動としての音だけでなく、ハンドルを通じて低音の振動が僅かながら感じられるということです。なんと、サブウーファーいらず!
短いですが以下に動画も載せておきます。音を大きめにしているので、なんとなく近づいてきて離れていく感じがわかるかと重います。
さて、お読みくださった皆様、いかがだったでしょうか?
個人向けに多いFDM式3Dプリンターは他方式に比べ安価な一方、素材が熱可塑性樹脂のみに限られるなど制限も多く、3Dプリンターだけで何かを作ろうとなると高い技能や工夫が必要になります。けれども、こうして既存のものと組み合わせたりすれば、私のような初心者に毛が生えた程度の者でも「ああしたい」「こうしたい」を結構色々叶えることが出来るのです。
YOKOITOが運営する京都のものづくり広場fagoraでも土日を中心にFDM方式の3Dプリンターの展示・利用が可能なので、関西圏で興味をお持ちの方は一度お問い合わせください。
それでは皆さん、自転車に乗る際は法律を守って安全運転、音楽を聴く時は周囲に配慮して必要最小限のボリュームで、ルールとマナーを守って楽しく3Dプリントしましょう。
ご意見・ご質問はこちらのコメントか、Twitter: @YOKOITO_infoにお願いします。
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