【京都YOKOITO通信】3Dプリント物を切削仕上げすると、こんなにキレイになる!!
去る5月のゴールデンウィークのこと、京都のYOKOITOものづくり工房に東京から吉岡くんが訪ねてきてくれました。彼は東京・中野にある、かの有名な「あッ3Dプリンター屋だ!!」さんで出会った建築を学ぶ学生さんで、3DCADソフトRhinocerosのプラグインGrasshopperを使ったコンピューテーショナルモデリングに詳しいのでかねてより色々と教えてもらっていました。
今回は関西にきたので弊社工房の見学や試作をしてみたいということで訪ねてきてくれたのですが、丁度時を同じくしてYOKOITOの工房にはローランドDGさまよりレンタルさせて頂いていた切削機「MonoFab SRM-20」があったのです!
この時私は以前からやってみたかった3Dプリント×切削の仕上げ作業を、Grasshopperによる複雑な形状でテストできるじゃないかと気付きました。そこで早速吉岡くんにお願いして切削用にアンダーカットのない形状を作ってもらいました。
ここで簡単にCNC切削機について説明しておきますが、ざっくり言えばCNC切削機(ミリングマシン)は「コンピューター制御で動くドリル」だと思って頂くのがいいと思います。特に小型のものは3Dプリンターなどと並んでデジタルファブリケーション機器の代表的なものに数えられます。仕組みは3Dプリンターとほぼ同じ前後左右上下の3軸駆動で、3Dプリンターが材料を積み重ねて形を作っていくのに対してCNC切削機はすでにある材料の塊から形を削り出していく、というものです。そして、ここで言うアンダーカットとは、SRM-20のような3軸の切削機が造形する際に、造形物の影になってしまって通常はドリルを入れることができない部分のことです(下図参照)。
つまり、アンダーカットのない形状とは、こういう形です。
これは吉岡くんがGrasshopperで作ってくれたデータの波の高さや幅を出力しやすいように調整し、物体として成り立つように編集したものです。
Grasshopperについての詳しい解説は長くなってしまうので簡潔にしますが、建築やプロダクトデザインなどの分野で主に使われている3DCADソフトRhinocerosのプラグインにあたるもので、ビジュアルコーディングのようなコンポーネントを繋げるだけのシンプルで直感的な操作で、アルゴリズミックでコンピューテーショナルなモデリングを可能にするものです。何のことやら伝わらないと思うので、伝わりやすい動画を参考に置いておきます。是非ご覧ください。
Peter Atwoodさんという方の動画です。
ともかく、ソリッドCADではないRhinocerosにおいて後から自由に形状変更が行え、また複雑な条件を用いてその形状を制御できるGrasshopperは今大変注目の分野です。
既に先進的な建築事務所などでは当たり前に利用されているこのRhino+Grasshopperを学生の内からしっかり勉強している吉岡くんのおかげで今回はランダムかつアンダーカットのない波立った形状を作ることができたので、これを3Dプリントします。
今回3Dプリントに使ったのは、YOKOITOで販売も行っている「MOMENT S 3Dプリンター」です。素材は切削性の良いABSでも良かったのですが、四角く割合平たい形状で反りが怖いのもあって今回はPLAにしました。
後から削るので、側面と上面の厚みを普段よりも厚めの設定にしておきます。サイズはおおよそ60mm*60mmです。
プリントが終わったら、いよいよ切削による仕上げを行います。
イメージとしては表層の積層痕部分を綺麗に削り取る感じにしたいので、まずSRM-20の付属ソフトのひとつである「Click MILL」を使ってプリント物が嵌まるような枠を削れてしまっても良いような板に掘ります。ソフトのほうでサイズを指定するだけで簡単に行うことができます。他にも固定して両面加工などを用意にするための穴開けなんかもこのソフトで楽に行なえます。この枠を掘る作業は捨て板の面出し(機械のXY面に対して土台の面を平行にすること)も兼ねます。
次に3Dプリントに使用したデータを読み込み、「Modela player」でパスの生成(ドリルが通る道筋を作る作業。3Dプリンターで言うところのスライスに近い)を行います。なるべく綺麗に仕上げたいのでドリルはφ1.5mmのボールを使います。使用するドリル、切削する対象物の材質などをソフトで選択していきます。途中の項目で切削範囲も設定できます。今回仕上がりが見たいのは主に上面なので上から10mmのところで切削をやめるよう設定しました。
ではいよいよ造形物を置いて中心が切削機の原点となるようセットし、切削を始めます。
切削元の3Dデータ自体をオフセットなどでプリント時よりもひと回り小さくする方法もあるのですが、今回は上面だけ削ることができればよかったのでデータはそのまま切削位置を1.5mm下げただけにして行いました。
スタートするとSRM-20のスピンドルがおよそ9000rpmほどの回転速度になり、PLAの造形物を削り始めます。切削で熱が発生するので、あまりゆっくりと切削していると溶けてしまいそうだなと思っていましたが、問題なく削れていきました。
あとは切削が終わるまで十数時間待ち、完成したものを取り出すだけです。
このような仕上がりになりました。
上面はなかなか綺麗に削れていて、積層痕は見当たりません。ランダムに生成した曲面を見事に表現しています。それどころか元の3Dデータが粗かった部分までしっかり再現されました。
側面も内側に少し削れていました。この面はまさにツルツルという言葉がふさわしいほど綺麗に仕上がりました。ひとまず、成功と言っていいでしょう。
さて、ここまで見てこられていかがでしょうか。
形状にやや制限があることと、時間と手間がそれなりに掛かる、という課題点はありますが、FDM式の3Dプリンターと小型の切削機でも積層痕を消して、かなり綺麗な仕上がりの表面にすることができました。
FDMのプリンターによる積層痕を消す作業を手で行うのはなかなか大変です。この手法は、ひとつしか製作しないモックアップなど、ワンオフの品であれば現時点でもかなり実用的なのではないかな、と私は思っています。
このレベルの仕上がりのものが、ともすれば個人で揃えられてしまう価格帯の機材の組み合わせで作ることができるというのは、大いに価値のあることではないでしょうか。
そして、この工程では削る部分が少ないので直方体の材料から造形するよりも時間も短く済みます。また材料費もABSの塊と、中身を空洞にできる3Dプリントで使用するフィラメントの量とでは雲泥の差です。
以上、これから先の発展に期待が持てそうな3Dプリント×切削仕上げの手法でした。SRM-20をお貸し頂いたローランドDGさま、ランダムな波のデータを作ってくれた吉岡くん、ありがとうございました。
おまけ
工業用の用途に目を向けると、近いことを行っている例がありました。
DMG森精機のこの動画では、粉末焼結方式の3Dプリントでおおまかな形を作り、それを切削で表面仕上げすることで従来よりも製作に掛かる時間を短縮できるとしています。一台の機械で行えるのはすごいですね。FDMの3Dプリンターに比べると非常に高価な機械ですが…
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